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支部長挨拶

北信越から読み解く雪氷災害の現在と未来 −地域特性に根ざした観測がもたらす備え−

日本雪氷学会北信越支部支部長 杉浦 幸之助(富山大)


1960年代から1970年代にかけて,世の中では「やがて寒冷化するのではないか」ということが話題になっていました.幼少の頃,冬が近づくと,雪が降るのを心待ちにしていたものです.当時は,その先に気温が上昇し,温暖化が待っているとは想像していませんでした

気象庁の発表によれば,日本の年平均気温は変動を繰り返しつつも上昇傾向にあり,特に1990年代以降,高温の年が多くなっています.「地球の平均気温は約15℃」という報告がありますが,大学の授業で学生に,ここ,富山の平均気温はそれより高いか低いか,と尋ねると,季節にもよりますが,高いと答えるか低いと答えるかのどちらかが多く,同程度と答える学生は少数派です.実際に日本雪氷学会の支部毎に年平均気温を見てみると,北海道の札幌で9.2℃,東北の仙台で12.8℃とやや低く,関東以西では東京で15.8℃とやや高くなっています.北信越はというと,富山14.5℃,金沢15.0℃,福井14.8℃,新潟13.9℃,長野12.3℃と,まさに地球平均に近い値を示しています

暑さも寒さも経験するここ北信越では,日本アルプスなど本州中央の代表的な山岳を有し,長年にわたる雪との共生の中で,雪氷災害に対する知見と対策が積み重ねられてきました.この伝統は,将来の雪氷災害への備えを強化する礎となっています.

一方,気温の上昇に伴って,雪氷災害の発生条件やその種類も変わりつつあります.かつては雪崩が主でしたが,近年では屋根からの落雪や雪下ろし中の事故など,生活空間での災害が目立つようになりました.被災者の年齢も,以前は35歳未満の方が多かったのですが,現在は65歳以上の方が過半を占めています.

今後,これまでは南方で見られていたような雪氷災害が北信越で見られるようになり,東北や北海道では北信越で特徴的だった雪氷災害が見られるようになるという懸念があります.「北信越化する東北・北海道」といった現象が起こるかもしれません.一方で,北信越は日本を代表する山岳域を有するため,依然として雪崩や吹雪などの危険があり,どちらの雪氷災害にも備える必要があります.

雪氷災害は地域の気象条件によってその姿を変えています.だからこそ,現場に根ざした観測による科学的なデータの蓄積が不可欠です.生成AIのような革新的なツールが登場した今,その記録を分析し,活用する能力は飛躍的に高まっていますが,観測していない過去のデータをAIが生み出すことはできません.未来の安心と安全を築くために「今」を観測し,記録を残しておくことの意味は,いっそう大きくなっています.

北信越という多様な雪氷環境を有するこの地域で,今後も正確な観測と科学的知見の蓄積を続けることが,変化する気候の中で私たちの暮らしを守る確かな道筋であると,改めて感じています.河島克久前支部長の後任として,2025–2026年度の北信越支部長を務めさせていただくことになりました.責任の重さを感じておりますが,支部会員の皆さまのお力添えをいただきながら,実りある2年間となるよう努めてまいります.どうぞよろしくお願いいたします.